2011年5月21日土曜日

父と娘 4

長い喫茶店での時間つぶしが終わり、娘が帰る時間に帰宅する。

夫が昼寝してますようにと祈りながら、そっと鍵を差し込む。

カチリ

そぉっとドアを開けると

キィっとかすかな音を立てる。

「ただいま」

と、夫が起きていたら辛うじて聞こえるように、寝ているなら目覚めないほどの声で言って、玄関に滑り込む。

部屋から音がする。

起きているのか。

トラブルにならないよう、もう一度、「ただいま」という。

「おかえり。」

夫が出てきて

「泥棒みたいだね。」

寝ていたところに不審な音で目がさめてしまったようだ。

でも買い物袋をもって運んでくれた。(そういう気づかいはよく出来る夫なのでのだ。)

良かった。機嫌は悪くない。

娘の部屋で話しをする。
早く「前略」から退会するようにと。

娘は早速始めたが、パスワードを忘れたとうまくいかない。

そのうち、悲しくなって泣きはじめた。何十分も。

そして、近くにあった食器をガラス窓に投げつけた。

チャリン

割れた。

今度は、香水の瓶

ガチン

ひびが入ったようだ。

幸い窓ガラスは無事だ。

「物を投げたい時は、考えて投げるんだよ。窓が割れたら大変だからね。」

と、現実的なアドバイスをする。


「何の音?」

と父親が不機嫌に入ってきた。

「悲しくて物を投げただけだよ。」

「何で泣いているの」

怒った声で繰り返す夫に、
泣くぐらい自由にさせてあげればいいのに

と思う。


夫がはじけた。

「あのプロフィール、何で昨日、削除しなかったの。」

許さないよ。

パスワードが分からなくてできないという言い訳に、父親は激怒する。

「そんなはずはないでしょ。出来ないわけないでしょ。」

「パイクが欲しいなんて書いてあって、誰に貰うつもりなの。」

次々に大声でたたみかける。

私が口を挟む。

バイクが欲しいのは、そういう気持ちがあるから。気軽に書いているだけ。危険だから大人になるまでダメだよと話してるけど、そういう気持ちを書くのはいいでしょ。

「だまれ。何もわかってない馬鹿。」

「それに、またミクシィやったら許さないよ。やらないって昨日は言ったのに、プロフィール(前略)には『ミクシィ退会します。またいつかやります。』なんて書いて、なんで親を騙すの。」

「それは挨拶がわりだって。本気じゃないよ。」

「だまれ」

「一年後かもしれないし10年後かもしれないし、今はもうやらないよ。」

と娘。

「じゃなんですぐにプロフィールやめないの。できないなら、最低限、コメントを消せばいいでしょ。何で昨日、消さなかったの。」
そこまで頭は回らなかったんだけど。大したこと書いてないし。

それでも大騒ぎをする父親に、早速、消すことを約束する。

でもまだ続く。

「二度とSMSに入ってはいけない。」

「今度ばれたら、どうなるかわかるか?

縛って、足も縛って、そして、、、」

父親は部屋を出ていくと、ウィンウィン機械音の出る何かをもってきた。

「怖いよ。足をかくさなきゃ。」

娘同様、私も恐ろしく自分の足に戦慄が走る。

「大丈夫。落ち着いて。」娘に声をかける。

どうか精神的なショックを与えるようなことをしませんようにと祈りながら。

機械音を響かせながら部屋に入ってきた父親の手には、バリカン。

「これで、、、これで、髪の毛を全部、剃ってしまうからな。

外に出られなくてもいい。
学校に行けなかったら行かなくていい!」

「わかったな。脅しじゃないよ。脅しなら本当にはやらないけど、脅しじゃないから。本当にやるから。」

父親がしばらくして外出した。週末、友人と会いに行ってしまうことが私達のホッとする一時だ。

せっかくだから家でテレビでも見るかと娘に提案するが、やはり気分転換に外出したいというので、当初の約束通り夕飯も外でとることに。

私の気持ちは固まってきた。
二人で家を出よう。

「二人で暮らして、好きなことやればいいでしょ。」
とさっき父親も喚いていた。

そうするよ、本当に。

娘だって、父親が想像してるほど酷いことするわけじゃないんだから。

ただ、落ち着ける、リラックスできる家が欲しいんだと娘はいう。


二人で不動産を訪ねた。狭くてもいいから安い物件を紹介してもらう。

日曜日に物件を3件見せてもらうことになった。

夕飯はサイゼリア。ハンバーグが食べたいという娘と、久しぶりに外食。

こんなにゆったりとした気持ちで食事をするのは本当に久しぶり。

帰りに、レンタルビデオショップで『告白』を借りる。

帰宅しても父親がいなかったので最後までみる。

いつの間に、こんな複雑なストーリーを娘は理解できるようになったんだろうと、当たり前のことかもしれないけど感慨深い。2年前なら、訳がわからないと、すぐに飽きてしまったことだろう。

父親はまだ帰って来ない。バスの時間は終わってるから、朝帰りかな。父親も帰り辛いのだろうか。

本当はものすごく寂しがりやだから。

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